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ステロイドについて

〇ステロイドとは

ステロイドとは、腎臓の上にある副腎という臓器で分泌される、人間が生きていくうえで欠かすことのできないホルモンの一つです。副腎皮質ホルモンを薬として使用すると、抗炎症作用、異常免疫の抑制作用、抗アレルギー作用のほか広範囲にわたる代謝作用を示し免疫異常によっておこる疾患の治療に広く用いられます。

 

ここでは、主に膠原病や関節リウマチとステロイドの関係性について解説していきます。

 

〇種類

さまざまな剤型がありますが、膠原病や関節リウマチの治療に主に用いられるのは、内服薬と点滴、関節注射ですが、点滴や注射は一時的なもので、治療のほどんどが内服により行われます。

 

〇飲み方と効果

内服のステロイドはいろいろな種類がありますが、抗炎症作用ステロイド薬で最も使われるのが「プレドニゾロン(プレドニン)」です。プレドニゾロンはもっとも標準的なステロイド薬で、古くから、様々な病気に広く処方されています。作用の持続時間は短~中間型です。比較的おだやかに作用し、副腎機能への影響も少ないほうです。このため比較的長期間にわたり内服の必要性のある、膠原病や関節リウマチの治療に最も多く使われています。

 

膠原病や関節リウマチは自身の免疫の異常が原因となって様々な症状をおこします。ステロイドには、この異常な免疫の作用を抑え込む効果があり、これによって膠原病や関節リウマチなどの症状を改善できることが期待されます。このため多くの膠原病の初期治療からステロイドが用いられています(ただし、関節リウマチに関しては意味合いが少し違います)。

 

〇膠原病とステロイドについて

 

ステロイドの内服量

 

膠原病には様々な病名がありますが、病気によって、あるいは同じ病気でもどの臓器に症状や障害が出ているかや、その症状、障害の程度、によって初期治療に用いられるステロイドの量が異なります。これに加えて年齢や体格、別にある持病などから、治療によるメリットとデメリットのバランスを考え、専門医がその人にあった内服量を決定しています。

 

膠原病のステロイドによる治療は、よく火事の消火にたとえられますが、激しく燃えているものを最初に大量の水で火の勢いを弱め、その後徐々に種火を消していくといったように、最初にまとまった量のステロイドを使い、病気の勢いが落ち着いてきたらゆっくりと量を減らしていくといった調整をします。少量から使って効果がない場合に少しずつ増量していく方法では、その間に臓器障害が進行してしまう危険性があるからです。

 

初期治療で病気の活動性がうまく抑えられてきたら、24週ごとにその時の内服量の1割程度をゆっくり減量していきます。これは減量のペースが速いと症状が再燃する可能性が高くなってしまうからです。

 

このようにして膠原病のステロイド治療は行われていますが、経過が順調な場合、実際にステロイドをやめることができるかが、多くの方が気になるところかと思います。

残念なことに、ステロイドには膠原病の症状を抑え込む効果はありますが、病気を完治させてしまうほどの効果はありません。これは膠原病が自身の免疫の異常、体質的なものから生じているため、根本的な体質自体を変えることはできないからです。

中には経過が順調で、ステロイドを完全にやめることができ、その後も症状がみられない寛解という状態になる患者さんもいますが、どの病気でも比較的少数派とされています。大半の方は、ステロイドを減量していく途中で、その量では病気の勢いを抑えることができなくなって症状が出現してきてしまう人が大半です。その場合はその病気の症状を抑え込むことが安定してできる最低限のステロイドを継続して内服していく必要があります。この最低限のステロイドの維持量も、同じ病気であっても人によって個人差がかなりあります。

ステロイドの最低限の必要量があまりにも多い量の場合には、以下に述べるステロイドの副作用のリスクなどもあるため、病気によっては他の免疫抑制薬を合わせて用いることによりステロイドだけの治療の時よりもステロイドの最低必要量を少なくできる治療も行われています。ただし、他の免疫抑制薬にもステロイドとは別の副作用もあることは知っておく必要があります。

 

〇関節リウマチとステロイドについて

 

関節リウマチに用いられるステロイドは少し目的が異なります。関節リウマチは進行すると関節が破壊され変形してしまうことが問題ですが、ステロイドにはこの関節の破壊を抑える効果はありません。リウマチの主となる治療薬は抗リウマチ薬になります。ステロイドの関節リウマチに対する効果は抗炎症作用による痛みの軽減だけです。そのためプレドニゾロン10㎎をこえる量の使用は基本的には推奨されておらず、期間もできる限り短期間であることが好ましいとされています。それでも、ステロイドにはある程度の痛みを抑える効果や即効性があるため、治療の初期や急な増悪など痛みが強くて困っている患者さんの症状緩和のために必要に応じて抗リウマチ薬と合わせて使うということは、リウマチの国際的な治療指針でも推奨されています。

また、関節リウマチは間質性肺炎など関節以外の臓器に合併症を起こすことがあり、この場合は他の膠原病の治療と同じように中等量以上のステロイドを治療として用いることはあります。この場合も経過が順調であれば膠原病と同じように内服量は徐々に減量していきます。

 

 

〇内服時の注意点

 

ステロイド薬は、1951年に初めて開発されて60年経った現在でも第一線で活躍し、他の薬には代えがたい効用があります。ただ、非常に効き目が良い反面、長期にわたって大量に服用するといくつかの副作用が出現することもあり、知識として知っておく必要があります。

 

1、 感染に対する抵抗力の低下・・薬を多く服用すると免疫力が抑えられ、細菌やウィルスに対する抵抗力が落ちます。

2、 骨粗鬆症・・ステロイドは、カルシウムの吸収を低下させ骨を作る細胞(骨芽細胞)の働きを抑えるため長期服用で骨粗鬆症のリスクがあります。

3、 糖尿病、高血圧、高コレステロール血症・・糖質コルチコイドには、食物中の糖分が体内に吸収されるのを助ける作用があります。また、血糖値を下げる作用があるインスリンの働きを抑えるので血糖値が高くなりやすくなっています。体に吸収された塩分を排出しにくくなるため血圧も上がる傾向があります。

4、 不眠、感情の変化・・ステロイド薬を内服している方は、寝つきが悪くなることや気分が高揚したり逆にうつ傾向になるなど気分の変動が大きくなることがあります。また、記憶が曖昧になったりイライラが強くなったり精神症状が強く出てしまう方もいます。

5、 消化性潰瘍(ステロイド潰瘍)・・消化管粘膜が弱くなるため、潰瘍ができやすくなります。

6、 血栓症・・出血を止める働きをする血小板の機能が亢進するため、血管の中で血液が固まってしまう血栓症のリスクがあります。

7、 満月様顔貌(ムーンフェイス)、中心性肥満・・食欲の亢進と脂肪の代謝障害によりおこりやすくなっています。

 

その他、白内障や緑内障などです。

副作用の出現する量や期間、内容は個人差が大きいです。

このようにステロイドと聞くとメディアなどでも知る機会が多く、どうしてもステロイド=副作用というイメージを持ってしまう方がほとんどです。

多くの副作用があることを知って「絶対にステロイドは飲みたくない」と思ってしまうことは当たり前のことでしょう。

ですが、飲まないという決断をする前に、ぜひ考えていただきたいことがあります。

それは

 

・自身の病気とつき合っていく中で、将来自分はどのような状態でありたいのか

・ステロイドを飲むことによるメリット・デメリットは何か

・ステロイドを飲まないことによるメリット・デメリットは何か

・それぞれのメリット・デメリットは自分の価値観と照らし合わせてどの程度重要か

・どういう選択をすれば将来ありたい自分に一番近づけるか

 

(これについては将来、詳しい別ページを作成いたします。)

 

たしかに、副作用は本来ない支障が新たに出現してくるという点では歓迎できるものではありません。ですが、ステロイドを使わないことにより、出現、進行する病気による症状や臓器障害といったリスクはその副作用と比べて小さいものでしょうか?薬全般に言えることですが、薬とは予想される副作用よりも、その使用によって避けられるリスクが大きい場合に必要と判断されることが大前提であるということは念頭に入れておく必要はあります。

医師の指示に基づき服用することで副作用の早期発見ができ対応や対処ができますし、経過が順調でステロイドを徐々に減量していけばその分副作用の影響は少なくなっていきます。そのためには、定期的な受診や検査が大切になってきます。

 

人間の体内で自然に分泌される糖質コルチコイドの量は1日あたりプレドニゾロン5~7mgと言われています。従って、プレドニゾロンの内服量が5mg/日以下の患者様には一般的に副作用は出にくいと考えられています。

 

また、プレドニゾロンを長期内服していると、体内のコルチコイド量が増えるため、本来、糖質コルチコイドを分泌している副腎は糖質コルチコイドの分泌を止めてしまいます。この状態でプレドニゾロンの内服を急に中断してしまうと、体内の糖質コルチコイド濃度が急に低下してしまい全身倦怠感や吐き気、血圧低下など様々な症状が出てしまいます。また、病気が再発する恐れもあります。量が減るまでは時間がかかることもありますが、無理して減量せずゆっくりと減量していくことが大切です。

 

このように、ステロイドを内服するにあたっては知っておいたほうが良い内容が多くあります。また、それぞれの副作用に対してあらかじめ対策をして、リスクの軽減が可能なものもあります。当院では患者さんが正しい知識と適切な飲み方で、できるだけ安心して安全にステロイドによる治療を受けられるよう専門の医師や看護師などのメディカルスタッフが薬や副作用対策の指導をさせていただいています。


執筆者兼監修者プロフィール

上原武晃

湘南リウマチ膠原病内科

院長 上原 武晃

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